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試合開始まで1時間を切っている
“先行”の恒星の試合前練習が終わり、次は西陵の番

グラウンドに飛び出そうとした樋口と安理が、なぜか恒星の選手に捕まっている

「何のエロゲーが好きですか?」
唐突な質問に戸惑う樋口と安理を尻目に、セカンドの守備位置に走っていく竜也と浩臣
なぜか同じ質問が竜也たちにも飛んできたので、竜也は即座に「はつゆきさくら」と答えている

それで我に返った樋口と安理は、それぞれ「ダ・カーポ2」「下級生2」と回答すると、恒星の選手・具聖燁は樋口に握手を求めている

「ボクはダ・カーポ大好きです。君とは話が合いそうだ」
そう言って笑みを浮かべた具承燁だったが、安理に対しては急に汚物を見るような視線にチェンジしている

「下級生2とか最悪。タマキーン」
ファッキングポーズを見せつつ具聖燁は1塁ベンチに引き上げていく
何だったんだあれ...状態で、樋口とアンチはそれぞれ自分の守備位置へ向かった


守備練習を行っていると、スターティングメンバー紹介が始まった
『先行の恒星高校。1番センター梶谷くん』

いきなり奇策を使ってきたので、ともにセカンドにいる竜也と浩臣は互いに顔を見合わせて首を傾げている
いい選手なのは重々承知だが、とにかくケガばかりで今大会も1度も出てないはずなのになぁと。うちが伊藤くんを隠したのと同様、恒星も温存してたってことなのかな。知らんけど

1番センター梶谷、2番セカンド脇谷、3番ショート坂本、4番レフト中田、5番ホワスト具聖燁、6番サード大嶺、7番ライト柿澤、8番キャッチャー中村、9番ピッチャー古谷
あとは全て渡島の昨日書いた通りのメンバー
読みの深さに感心しつノックの打球を捌いていると、続きまして西陵高校のスターティングメンバーの発表ですとなぜかウグイス嬢からDJ風の演出に切り替わって竜也は思わず目を丸くしている

『ファーストバッター セカンドベースマン RYUYA・SUGIURA ナンバー6。1番セカンド杉浦 背番号6』
挙句オーロラビジョンには、いつ撮られたのか知らないが見開きポーズを決める竜也の姿が大写しになっていて思わず噎せてしまう

西陵側スタンドからも大歓声と大爆笑が巻き起こる中、そのド派手な演出のままラインアップの紹介が続いていた
1番セカンド杉浦、2番ショート草薙、3番サード岡田、4番キャッチャー千原、5番ホワスト樋口、6番ピッチャー久友、7番センター和屋、8番ライト大杉、9番レフト天満
ピッチャー久友と聞いて、恒星ベンチがにわかに焦りだしているように見えた

「向こう、俺が先発じゃないから焦ってるみたいだな。つか、そもそもセカンドにいる時点で気づけって感じだが」
ブルペンにも入らず、なぜか浩臣はセカンドに立っている
とはいえノックを受けるわけでもなく、ただこの場にいるだけだったが

「ブルペンは試合始まってからで。さすがに久友ちゃんそんな早く降板しないやろ」
浩臣が呟くと同時、西陵ブラスバンドと応援団による演奏がスタートし始めた

絶対勝つぞ!西陵!から始まる定番のアレかと思いきや、聞き慣れない前奏とともにとんでもない歌詞が流れてきて竜也は再び噎せている

『進藤~、春川~、水木~(松村!)、杉浦~!』
噎せている竜也を見て、浩臣はしてやったりの表情
そしてそれに続く応援歌がまた聞き慣れないやつで竜也はちょっと目を丸くしつつ、浩臣に作った?と確認すると「いや、俺作ったの前奏だけだぞ」との即答

『行くぞ竜也ホームラン センターオーバーホームラン 弾丸ライナーだ! 飛ばせ運べ竜也』
いや、カッコいいんだけどさ。俺に似合わないだろと思っている
つか、ヘルメット2個被らないとダメでしょこれ。幸雄さんはヘルメット2つ被ってますからね!(岩本勉ism)

練習時間終了ですとコールがかかったのでそれぞれベンチへ戻ることに

相変わらず無駄に激しく応援が続いている中、竜也がベンチに戻ろうとするとベンチ上のスタンドにいた未悠が声をかけて来た
「よかったでしょ、君の新しい応援歌。光ちゃんに頼んで、応援団の人に作ってもらったんだよ」

まさかの未悠の仕業だった。竜也は内心苦笑しつつ、ホームランは無理だぞと呟きつつ右手を挙げてそれに応えてベンチの中へ

例によって竜也は浩臣の隣に腰を下ろすと、渡島が近づいて来た
「梶谷は予想外だったな。まあ塩見より怖くないだろ」
それだけ呟くと、渡島は定位置のベンチの端最前列へ戻っていく

「って、何か向こうのベンチ騒がしくないか? 気のせいかもだが」
浩臣がそっと耳打ちしてきたので、竜也もそちらに視線を向けると何か妙に慌てた感じに見受けられる
てっきり先発が久友で動揺していたのかと思っていたが、何かアクシデントでもあったのだろうか

西陵の応援が一段落ついたと同時、恒星側からは西陵倒せ!の大合唱が始まっている

「タチ悪いな。マナー悪いのは坂本だけで十分だろ」
浩臣がまたボソッと呟くと、いつの間にか傍に寄って来ていた祐里が同意しつつ付け加えている

「綾部ってのも相当酷いよあれ。さっき球場入りした時にさ、“恒星の綾部です。後でデートしてください”っていきなり言われたからね。電話番号書いた紙渡されたけど捨てちゃったよ」
言って、バッカじゃないのと呟きつつ祐里もまた定位置の渡島の隣へ戻っている

綾部、恒星の控え投手
普通にいい投手としか思ってなかったが、人格的には大概アレなのかも知れない。知らんけど

いつの間にか恒星ベンチは平静を取り戻していて、妙に戦う顔をした監督を中心に円陣を組んでいる
あまりのでかい声に、こちらのベンチまでそれははっきり聞き取れてしまうアレ

『普段の野球、それで勝てるのかお前ら!』
罵声としか思えないそれに、竜也と浩臣は互いに顔を見合わせて思わず苦笑している
竜也は祐里に視線を向けると、もちろん聞こえていたようで下を向いて首を振って呆れている様子
一様に驚いた様子の西陵メンバーだったが、渡島は一人柔和な表情を崩していない

まさに対照的な両監督と両チームといったところ

円陣が終わっても吠え続けている恒星の波瑠監督に対し、渡島は一人ずつ声をかけて歩いている
浩臣に対してはブルペン行かなくていいのかと呟きつつ、「久友の後は最後まで頼むぞ」と言ったので、浩臣はハイと即答して大きく頷いている

「試合始まってからでいいですよね」
浩臣がそう続けると、渡島は静かに頷いて今度は竜也に声をかける

「気負うなよ。いつも通りやれ」
竜也の右肩をポンと叩きつつ言って渡島はニヤリと笑うと、祐里のほうを見て目を細めている
祐里がえ? という感じでこちらに視線を向けたので、渡島は小さく手招きして呼び寄せた

「進藤。キミからも何か一言かけてやれ。こいつが頑張れるようにな」
言って渡島は別の選手たちへ声をかけに行っている

俺外そうか? と茶化す浩臣を制しつつ、祐里は今更だよねと言ってあははと笑っている

「竜、そして伊藤くん。泣いても笑ってもあと1試合。今日は絶対勝って、あの夢の舞台(甲子園)へ行こうね」
祐里が噛みしめるように言うと、竜也と浩臣は即座に首を振ってそれを否定してみせる

キョトンとする祐里に対し、竜也はまたいつもの見開きポーズをするとその目をしっかりと見据えた

「今日勝つから。あと1試合じゃないだろ。甲子園もあるし、国体もあるんだから」
竜也が珍しく大言を吐くと、浩臣は同意するように何度も頷いている

「竜の言う通りだ。まあ夢の舞台(甲子園)まであと1試合ってなら、間違ってはいないけどな」
浩臣はそう言って目を細めていた